日中帝国主義の衝突
2012年に始まった、尖閣諸島を巡る争いは、極東最大の大国同士の敵対的な野望と緊張をもたらした。世界で最も多くの人口を抱え、世界第二位の経済力をもつ中国と、同じく第三位の日本両国は、互いにこの諸島を巡る緊張をエスカレートさせ、自らの力を示すため、兵力を動員してきた。これは日中およびアジアのみならず、世界全体にとって、間違いなく深刻な問題だ。
この両巨頭のみならず台湾も同諸島の領有権を主張している。尖閣諸島は岩だらけで居住不可能な地にも関わらず、その戦略的価値や、潜在的な油田や天然ガス源(訳者注:レアメタルも)と豊かな漁場の存在は、同諸島の領有権の主張を決定的にエスカレートさせている。
中国:新興帝国
中国にとって、尖閣諸島の領有権を主張し、日本と衝突しているのは、近隣諸国との対立を代表する熱い一例でしかない。近年の経済成長以来、中国はますます資源に依存せざるをえないという脆弱性を抱えるようになった。同国の船舶輸送の八割は尖閣諸島周辺を通過する。アジアにおけるいかなる海峡封鎖も中国を大いに動揺させることになる。さらに中国は、本土を超えて海のむこうまで、とりわけ南シナ海において自身の影響力を強めようとしている。[1] 主要なライバルであるインドと直面する中国は、戦略的に重要な地点にそれぞれ前哨基地を設置しようとしている。中国はアメリカや他の国の攻撃を覚悟してまで、イランとシリアを支援してきた。中国の指導者達は平和的な経済発展を望む一方、支配派閥は軍事力の増強に投資を続けてきた。唯一の超大国であるアメリカは、既に中国がアジアで最大のライバルだと理解しており、軍事的重点を東アジアに移すことを決定した。アメリカは2020年までに海軍力の60%を東アジア地域に配置する予定だ。
その上、増大する資源需要、とりわけエネルギー資源需要は、中国の南シナ海での資源探査および採取権に関する主張を過激なものにしている。中国のこれまでの南シナ海での対立と今回の日本との尖閣諸島を巡る対立は、この国が喉から手が出るほど資源を欲しがっているのみならず、帝国主義ヒエラルキーの再編成へと名乗り出たことを示している。この国はもはやアメリカとその同盟諸国の支配的な役割を終わらせ、自国の領土を超えて利益を守ることのできる勢力となろうとしている。それゆえ、この日中の対立は極東における増大する帝国主義国間の緊張の氷山の一角に過ぎないのだ。
日本:自らの野心に執着する衰えゆく帝国
日本はこれまで尖閣諸島の領有権を主張し、自身のプライドを、かつての帝国主義的歴史の中に新しく見出そうとしている。既に19世期末には、日本の資本は台湾、東シナ海の島々そして韓国侵略の野望へと向かっていた。今日の日本政府は、尖閣諸島の1894年の占領の歴史的正当化を推し進めている。日本のアメリカ帝国主義に対する敗北によって、この諸島はアメリカの管理下に置かれたが、1972年に日本に返還された。もちろん日本はこの地に眠るエネルギー資源を中国に譲り渡す気はないし、帝国主義の序列を変える気もない。この国は過去の呪縛から抜け出したがっている。第二次世界大戦での敗北後、日本はアメリカの傘の下に入った。激しい爆撃(広島、長崎への原爆投下と東京他各地への空襲)の後、アメリカの管理下に置かれた。日本は国外での衝突に軍事力をもって干渉することは許されないとする憲法を制定することを強制され
た。しかし、1950年代初めの冷戦の文脈において起こった朝鮮戦争によってアメリカは、ロシアや中国との対決の際に支援を得るため、日本の再軍備を余儀なくされた。北朝鮮による日本やアメリカ、韓国に対する武力行使をちらつかせた恒常的な脅迫と、中国の力の増大によって、日本は自らを矛盾する立場に置かれていると見なすようになった。アメリカへの依存から抜け出したい一方、北朝鮮と中国の軍事的脅威に対して、自国をアメリカの軍事力の下においておきたいわけだ。1989年以来この国は自国の影響力を拡大するため、若干の歩みを進めた。自衛隊は、ペルシャ湾およびインド洋で最初の「海外派兵」を経験し、アフガニスタンとイラクでのアメリカ主導の戦争で兵站面の一部を担った。日本は、インドやベトナムと共に、マラッカ海峡と南シナ海での軍事行動に参加した。先ほど、日本は、ジブチで最初の軍事基地を設立した。その自衛隊は最新の兵器を備えている。中国軍の近代化と拡大は日本に更なる軍事力への投資を促している。しかし、日本にとって中国と尖閣諸島は唯一の争い事ではない。日本は、韓国とも日本が1905年に韓国から獲得した竹島を巡って争っている。日本は北朝鮮の軍事的挑発を恐れていて、将来起こりうる南北朝鮮の統一を更なる脅威と感じている。とはいえ、日本は、中国の帝国主義の興隆こそが最大の脅威だと感じている。歴史的に日本と中国は、この地域に置ける二大帝国として対立してきた。長年に渡って中国の大部分を占領し、幾多の国民の虐殺を伴った凄惨な戦争を遂行した日本に対して、中国の支配階級は常に、日本に対する復讐の愛国主義的感情を利用している。対する日本の安倍内閣は、中国に対して、より攻撃的なスタンスを取ると表明した。
日中間のいかなる緊張のエスカレーションは、アメリカと中国の緊張に油を注ぎ、両国およびその同盟国が対立している他の地域での緊張をさらに発展させることになる。アジア二大大国の競争は全世界に飛び火することになる!
単なる牽制に留まらない日中の衝突
いくつかの場合、とりわけ2012年秋、いくつかの中国の都市で、尖閣諸島における日本の軍事力に対して、日系商店を燃やしたり、日系企業の工場を攻撃するなどの抗議があった。中国政府は明らかにこうした抗議を歓迎し、おそらくは直接組織すらした。
他の政権と同じく、中国政府も、拡大する経済問題、汚染、支配派閥の汚職に対する怒りなどの深刻な社会問題から人々の目を逸らすことに熱心だ。当局が認めざるを得なかったほど「暴動」の件数は過去数年に上昇し続けている。
中国政府は、こうした抗議を国粋・愛国主義の枠に引き戻したがっている。日本との衝突は、人々を国家に再結集させるための材料として用いられる。中国は長年にわたって、洗練された愛国プロパガンダを若い世代の頭に叩き込んできた。。長年不況に苦しみ、フクシマと津波の惨劇に直面する日本政府も同じように、人々を国家主義に引き込み、国家の元に団結させたがっている。確かに支配派閥はこうした抗議を見事に裏で操っているが、この対立を単なる経済・社会・環境問題から目を逸らすための国家主義の欺瞞だと見なしてしまうのは危険である。アジア太平洋地域最大の両国が尖閣諸島を巡って衝突し、アメリカとアジア諸国がこの争いの敵味方を見定める過程に入れば、帝国主義国同士の緊張がアジア太平洋地域全体に広がるだろう。
両国とも互いの輸出に極度に依存しあっていて、先の衝突が原因で貿易が深刻な落ち込みを見せたのに、なぜ、支配者たちは「理性的」に国家主義の傾向を抑えようとしないのだろうか。そもそも支配者たちは「理性的」なのだろうか? 実のところ軍国主義は、資本主義の不治の病なのだ。資本主義は一国の力よりはるかに強力なのだ。資本主義は平和的に経済競争をすることを許さない。過去一世紀にわたってシステムは人類をますます野蛮になってゆく戦争へと引き込んだ。第一次世界大戦の主要な戦場はヨーロッパだった。アジアはこの時点ではまだ戦場から幾分遠くにいた。しかし第二次世界大戦では、アジアの広大な地域が主要な戦域となり、何千万の命が失われた。ベトナム戦争に先立つ朝鮮戦争は、1950年代の最も凄惨な対立の一つだ。ソ連の崩壊とアメリカ帝国主義の衰退に続く形で、中国帝国主義が力をつけ、アジアの帝国主義レースに挑戦することが可能になった。アジアにおける中国のライバルたち(日本、韓国、ベトナム、フィリピン、インドなど)は、中国の更なる勢力拡大を防ぐため、アメリカの軍事支援を望んでいる。日中の先日の衝突は、この地域全体で増大する一連の緊張のひとつに過ぎない。
私たちのとるべき態度は?
私たちは政府の国家主義的政策に従い、大量虐殺に備えるべきだろうか?いや、そうすべきではない。国家主義、国粋主義、愛国主義はプロレタリアの墓場だ。克服不能な経済危機、終わりのない戦争への道、排外主義、労働者階級の貧民化、地球環境破壊といった人類が直面している問題を国家主義では解決しえない。国家主義の罠に嵌れば、人類は淘汰されるだろう。20世紀だけでも、2億人が終わることなき一連の戦争によって殺害された。現在の生産様式から抜け出すことによってのみ私たちは、この社会が追い立てるこの袋小路の野蛮から抜け出すことができる。
これこそが労働者階級、とりわけ若い世代の労働者階級がそれぞれの国の社会運動に送らなければならないメッセージだ。日本では福島の惨事に対して幾多の抗議が行われ、経済危機の惨状に対する怒りも増している。[2] 中国では、信じがたい搾取とおぞましい環境汚染に対する多数の労働者ストが起こっている。[3]
アラブの春、スペイン、アメリカ、ギリシャ、バングラデッシュなど、高い失業率、貧民化と職場での増大する重圧に苦しむ労働者階級の人々がいる多くの国々では、国家の下に団結する国家主義ではなく、階級対立が解決策となる。私たちはこの危機と野蛮を、「国外の競争相手」の所有する商店や工場を燃やしたり、国外のライバルたちの商品のボイコットを呼びかけたり、あるいは制限したりすることで乗り越えることはできない。労働者階級の名の元、国家に対する国家ではなく、階級に対する階級として一つにならなければならない。私たちのスローガンはいつでも「労働者に祖国はない」だ!
第一次大戦という大殺戮を労働者階級が終わらせることができたのはこの見地があったからこそだった。世界中の労働者の一致を呼びかけたレーニンを取り巻いた革命家たち、リープクネヒト、ルクセンブルク、その他国際主義の立場を守った人たちだ。工場や戦場の労働者たちを鼓舞し、ついには革命的叛乱によって第一次世界大戦を終結に導いたのは、この強固な国際主義の立場だった。1937年の日中戦争時、小さな左翼共産主義グループ「Bilan」の国際主義者たちはこの立場を守った。
『 この戦場の両側に、労働者を虐殺することこそが目的の強欲で支配欲にかられたブルジョアがいる。この戦場の両側に、大虐殺へと仕向けられた労働者たちがいる。間違っている。
労働者が革命への闘いに勝利するため、まずは帝国主義日本を倒すという考えのもと、中国の労働者と共にほんのひとときでも共に「闘う」ブルジョアがいると信じることは絶対に間違っている。帝国主義はあらゆる場所で拡大し、中国は他の帝国主義の傀儡に過ぎない。革命的闘争のためには、中国と日本の労働者たちは階級の団結をもたらす階級闘争に戻らなくてはならない。同者の結束は、搾取者たちへの同時攻撃を確固たるものにするだろう(中略・・・)。国際共産左翼の勢力だけが、大勢の裏切り者や日和見主義者に対抗することができ、革命への闘いの旗をは高く掲げることができる。この勢力だけが、アジア中に阿鼻叫喚をもたらす帝国主義戦争から搾取者にたいする労働者による民衆戦争 - 中国と日本の労働者の結束、「国家戦争」の戦線破壊、国民党に対する戦い、日本帝国主義に対する戦い、労働者を帝国主義戦争へと動員するあらゆる勢力に対する戦い - へと転換することができる。』 (1937年10月のイタリアの左翼「Bilan」の雑誌第44号1315頁より )
私たちはこの国際主義者の伝統を担い、国家主義の牢獄から抜け出さなければならない。今日、労働者が互いに連絡を取り合い、国際主義者たちの間で繋がりを持ち、世界中どこでも国際主義者たちの共通の立場を守るために必要な条件は整えられている。支配者たちが検閲、インターネット検閲、弾圧、国境閉鎖などのどのような手段を用いようとも、私たちは労働者の結合にむかって歩みつづける。
日中の支配者たちがとりわけ若い世代を国家主義の誘惑に取り込もうとするなか、私たちは、階級闘争という私たちの道を進まなければならない。そうした態度は、支配者同士が脅迫し、同じ戦争プロパガンダで煽り立てる北朝鮮と韓国にとって重要なメッセージとなるだろう。
国際共産主義潮流(2013年2月)
私たちのパンフレット「19世紀から現代の極東における帝国主義」https://en.internationalism.org/booktree/3448を見よ
[2]
https://en.internationalism.org/icconline/201208/5087/demonstrations-japan-indignation-spreading
[3]
例えば2013年の1-2月に、北京における大気汚染が記録的な水準になり都市の何百万の命を脅かし、スモッグは後日、日本に流れていき、そこでも記録的な汚染が観測された時、両国政府は自国の人々の健康を守ることそっちのけで、尖閣諸島を巡る軍事的冒険に打って出た。